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タブーの病理

禁止されると、禁止が気になって、破りたくなる。 そういう心理が働くことがあります。


タブーについての研究は、心理学だけではなく、社会学や人類学など、様々な角度から考えられてきました。 神話や芸術の世界のあちらこちらに、禁止されていたのに、それを破ってしまう物語を見つけることができます。


見てはならぬと言われてしまうから、見てしまう。 イザナギ・イザナミの神話も、鶴の恩返しも、能の安達原も。 ギリシャ神話のオルフェウスとエウリュディケも。ディアナの水浴びを見てしまったアクタイオンも。

禁止されることは、見ることだけに限りません。 浦島太郎の物語では、「開けてはいけません」と玉手箱を渡されます。 オペラの中には、「寝てはならぬ」という有名な歌があります。これは、プッチーニの『トゥーランドット』というオペラのなかの名曲です。 映画『メアリー・ポピンズ』のなかの子守歌「眠らないで」の歌詞も、眠らないでと言いながら、眠らせる作りになっています。 ジュリー・アンドリュースは静かにささやくような歌声で「Stay Awake, Don't close your eyes」と歌っています。 英語の文章になると、禁止令(~するなという命令の形の文章)は、「~する」という命令を含んでいることがわかりやすい気がします。 「Don't close your eyes(目を閉じないで)」という文章は、「Close your eyes(目を閉じて)」という文章を含んでいるのです。

前置きが長くなってしまいましたが、摂食障害の方や、強迫症の方の御相談のときに、このことを説明することがあります。 「太ってはいけない」「食べてはいけない」「吐いてはいけない」「触ってはいけない」「失敗してはいけない」等々、たくさんの禁止を自分に課して、日常生活に支障をきたしてしまうことがあります。

たとえば、過食嘔吐の問題を抱えている方の多くが、「食べてはいけない(Don’t eat)」と頭のなかで繰り返し、ぱんぱんになっていることがあります。 ですが、それは考えれば考えるほど、「食べなさい(Eat)」と自分に言い聞かせることと同じように作用してしまうのです。 食べてはいけないも、食べなさいも、食べることを考えていることに、変わりはないのです。

この仕組みをわかっていると、なにかの行動をやめたいときに、自分にやめろ、やめろと言い聞かせることは、無意味どころか逆効果であることがわかります。 依存症でも同じです。ゲームでもギャンブルでも性依存やアルコールでも、やめろ、やめろと自分に固く言い聞かそうとすればするほど、その問題に囚われてしまうのです。 とはいえ、考えないと言っても、そう簡単に悟りを開けるわけではありません。 人間の脳みそは絶え間なく、なにかを考え続ける癖がありますから。

そこで、「なにか別のことを考える」ということを提案させていただくことになります。 それをするなと自分に言い聞かせるよりも、違うことで頭をいっぱいにしてあげられたら、だいぶ楽になれるのではないでしょうか。 自分の問題をちょっとでも手放すことは、慣れていないこともあって、結構、思い切りが必要なこともあります。 楽しくて夢中になれるようなものがあったら、そもそも、その問題に囚われてはいなかったかもしれません。 わかってはいますが、そこはほんの少しがんばって、自分を問題からべりりっと引きはがしてもらうことをイメージしてもらいたいと思います。 問題の代わりに目の前の現実と向き合うのはそれはそれでしんどいので、頭から追い出す、頭をほかのことでいっぱいにする、そんな時間を探し、練習し、増やしていきましょう。

ですから、こういう質問をおうかがいすることがあります。 「その問題がなくなったとしたら、あなたの生活はどんな風に変わりますか?」 「今、その問題に費やしている時間を、その問題がなくなったとしたら、どんな風に過ごしたいですか? それができたら、今とは気分は違っていそうですか?」


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