上司としての危機対応

先日の熊本地震では、福岡でも比較的大きな地震となりました。
私は日中勤めているオフィスはビルの4階にあり、仕事中だったことから、揺れは大きく感じられました。
あとになって、ほかの管理職の方にこのときの話をしたところ、ずいぶん感心されました。
せっかくなので、書き残しておきたいと思います。
目次
地震時に自分が何をしていたか
非常時には、管理職の役割がむき出しになる
「できる部下/できない部下」と考える前に
管理職自身の感情を、組織運営に持ち込まない
1.地震時に自分が何をしていたか
緊急地震速報が鳴ったとき、私も驚きました。久しぶりだったこともあり、すぐに反応することができません、これは、どうやって消せばいいのだろう?と、自分がゆっくりと考えていたように思います。けれども、職場には患者さんがいて、それぞれ面接をしているスタッフがいます。面接をしていない部屋ではドアは開きっぱなしにするルールです。まずに彼らスタッフ全員に聞こえるように声をかけ、面接中の人にはいったん面接を中断するよう伝えました。
速報と同時医、ゆったりとした横揺れが始まり、そのまま消えるかと思っていました。ところが、思っていたよりも揺れが大きくなったので、本棚からほこりが舞うのが目に入りました。それで、本棚など倒れる可能性があるものから離れて、安全を確保するように指示しました。
こういうとき、声の出し方は少し意識します。やや低めの声で、ゆっくりと、大きく。自分が慌てて大きな声を出せば、周囲の不安も大きくなります。一方で、危険が迫っているときに、聞き取れない声で遠慮がちに話している場合でもありません。
揺れがおさまってから、医師が診察を再開したことを確認し、私たちもカウンセリングを再開しました。その間にも地震についての情報を集め、必要なことはスタッフに伝えました。受付や交通機関の状況など、自分以外の人に任せられることは任せました。家族への連絡も必要でしょうし、できるだけ残業せずに帰れるようにすることも考えます。
私としては、「管理職なら、こうするものではないのかな」と思っていたので、褒められたことが少し意外でした。けれども改めて振り返ってみると、非常時には、普段はあまり意識していない「上司の仕事」が、わかりやすい形で現れるのかもしれません。
2.非常時には、管理職の役割がむき出しになる
状況を把握すること。何を優先するのかを決めること。必要な情報を集めること。誰が何をするのかを整理すること。そして、自分が判断したことについては、自分が責任を引き受けること。
ただし、上司が何でも自分ですればよいわけではありません。
地震が起きたとき、全員でネットを見て震源地を調べても仕方がありません。全員で受付に集まっても仕方がありません。それぞれのスタッフが「面接を続けるべきだろうか」「患者さんを帰してよいだろうか」と一人ずつ悩む必要もありません。
誰かが状況を見渡して優先順位を決め、「こちらは私がやるので、あなたはこちらをお願いします」と役割を整理すれば、それぞれが自分の仕事をすることができます。
危機のとき、上司が一人で大活躍する必要はありません。むしろ、その場にいる人たちが、それぞれ機能できる状態をつくること。それが管理職の仕事なのかもしれません。
そう考えていて、ふと、これは非常時に限った話ではないと思いました。
3.「できる部下/できない部下」と考える前に
私は、上司の仕事の一つは、部下が機能できるようにすることだと思っています。
部下がうまく仕事をできていないとき、「能力がない」「やる気がない」と考えてしまえば、それで話は終わります。でも、その人には何があれば、もう少しうまく仕事ができるのでしょう。
安心して仕事ができる環境が必要なのかもしれません。曖昧な指示ではなく、明確な役割分担が必要なのかもしれません。反対に、細かく指示されるより、ある程度の裁量を渡したほうが力を発揮する人もいます。任せっぱなしでは難しくても、途中にチェックポイントを置けば、一人で最後まで進められる人もいるでしょう。
知識が足りなければ教えればよい。経験が足りなければ経験できる機会をつくればよい。仕事量が多すぎるなら調整する。困ったときに早めに相談できる関係をつくっておくことも大切です。
もちろん、それでもできないことはありますし、すべてを環境のせいにすればよいという話でもありません。けれども、「この部下は使えるか、使えないか」と考えるより先に、「この人が機能するためには、何が必要だろう」と考える上司ではありたいと思います。
ここでいう「機能」というのは、上司の思いどおりに動くことではなく、その人が自分の役割を理解し、持っている力を発揮し、自分で判断できるところは判断し、困ったところでは助けを求めながら働けること、という意味合いです。
4.管理職自身の感情を、組織運営に持ち込まない
もう一つ、管理職になると気をつけなければならないと思うことがあります。
上司も人間なので、部下に対して好き嫌いはあります。腹が立つこともあれば、どうしても苦手だと思う相手もいるでしょう。だからこそ、自分の感情と、仕事上の評価をできるだけ分けなければなりません。当たり前のことですが。
自分の意見に賛成してくれる人を「味方」、異論を言う人を「敵」のように感じ始めれば、組織は少しずつおかしくなっていきます。
大事なことを複数人で相談する。判断の基準を共有する。必要なことは記録に残す。
管理職がいつも冷静で公平な人格者でいられるとは限らないからこそ、個人の感情だけで組織が動かないような仕組みをつくることも、上司の仕事なのだと思います。
先日の地震のとき、私は「立派なリーダーとして振る舞おう」と考えていたわけではありません。ただ、この状況で患者さんの安全を守り、スタッフがそれぞれの役割を果たすためには、今、何をすればよいのか。それを順番に考えていただけでした。
上司としての正解が何なのか、今でもよくわかりません。
それでも、どうやったら、部下が機能するだろう。困ったときには、まずそこから考える。安全を確保して、それから、部下がそれぞれ活躍できるように場を整える。そういう上司ではありたいと思っています。




