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ねこのて症例検討会アンコール

執筆者の写真: ふくち
ふくち
29 分前
読了時間: 9分

2023年から、毎月第一土曜日に、症例検討会を続けてきました。私がライフワークにしたいと思って始めた症例検討会です。事例検討会と呼ぶほうが心理職らしいかと迷ったのですが、少しの憧れを込めて、少し背伸びをして、ねこのて症例検討会と名付けました。


怖くない症例検討会

ねこのて症例検討会のコンセプトは、「怖くない症例検討会」。

残念ながら、症例検討会や事例発表が「怖い」という心理職は、少なくありません。では、事例を発表すること、症例検討会に参加することをためらわせるものは何だろう。そんなことを、いろいろと考えてみました。

一つ目は、「何を言われるかわからない怖さ」です。事例発表やスーパービジョンに対するためらいと同じく、自分が評価されることへの怖さ。場合によっては、グループだからこそ、人が見ている前でこきおろされる怖さのようなものがつきまとうのではないか、と考えました。実際、「なぜこれを聞いていないのか」と細かな情報の不足を問い続けながら、その情報を尋ねる臨床的な意味は説明されない、という話を聞くことがあります。時には、指導や検討という範囲を越えて、発表者の人格まで否定するような言葉が投げかけられることもあります。

二つ目は、コメントすることへの恥ずかしさです。適切な質問や感想を述べられるだろうか。的外れな感想を述べるのではないか。素朴な質問をして笑われるのではないか。自分が理解できないのではないか、自分の無理解が露呈するのではないかという怖さもあるのではないでしょうか。

三つ目は、いざ事例を提供するときの、資料を作るわずらわしさです。これは私だけかもしれませんが、仕事で忙しいときに、何十回と会った事例の資料をまとめることは、きわめて有益な勉強になるとわかっていても、負担に感じるものでした。時間の面でも、作業量の面でも……。面倒と言ってしまえば身も蓋もありませんが、まとめるというのは大変負荷の大きな作業です。

それなら、こうした怖さや負担をできるだけ減らす仕組みを作れないだろうか。

私たちは心理職です。怖いのであれば、怖くない仕組みを作る。怖くない場を作る。そして、「症例について人前で話しても大丈夫だった」という体験をしてもらう。人が安心して自分の思いや考えを話せること、そのための関係や環境を整えることの大切さを、私たちは知っているはずです。それならば、後輩たちが安心して学べる場所を作ることも、私たちの仕事ではないでしょうか。


ねこのて症例検討会の仕組み

最初は三か月ごと、次に半年ごとに参加者を募り、20人前後で締め切るクローズドな会として運営してきました。事例を出す人は希望制。事例提供者には、自分が担当しているクライエントになりきってもらい、私が治療者役をして30分ほどロールプレイをします。そのあと、事例提供者と私で30分ほど振り返り、残りの60分は、参加者一人ひとりから質問や感想を話してもらいます。

資料を作る必要はありません。事例を出す人は、自分がそのクライエントになりきるだけ、です。そうすることで、どこまでがクライエントその人の個人情報であるか、だれも確かめようがありません。これは、クライエントを知る人は担当する心理職だけであることを意識する構造です。正解はクライエントの中にある。スーパービジョンの正解は、事例の提供者の中にある。そういう思いを持ちつつ、守秘義務に最大限配慮した仕組みを提案しました。

もともとはSplution-Focused Approachのグループ・スーパービジョンにヒントを得たものです。その勉強会では、ロールプレイのTh.役を持ち回りにして、いかにカウンセリングをするかも練習する場となっていました。その方法にも魅力を感じていましたが、ロールプレイのTh.役と司会は常に私がすることで、その場の空気がとげとげしくならないように心配りをしました。重箱の隅をつつくような質問や、発表者を追い詰めるようなコメントではなく、できるだけポジティブなフィードバックをすることを大切にしてきました。

症例を検討することは、発表者を批判することではありません。その人が何を見て、何を考え、どんなことを大切にしてきたのか。それを一緒に考えることも、症例検討の大切な仕事だと思います。それなのに、怖くて発表できない人が増えてしまったら、症例検討の文化は育たないと思うのです。

いっそ、ご自分のクライエントはこのように素晴らしいのだと自慢するぐらいのつもりで参加してもらえたら、そこから事例を発表することに慣れてもらえるかもしれません。症例検討や事例発表にも、初心者向けからベテラン向けまであっていい中で、私は入り口になるような場所を作る、零れ落ちそうになっている人を迎え入れるような場所を作ることに関心が高かったのです。


臨床の知恵を見てもらう

この会には、症例を振り返って検討すること以外にも、いくつかの目的がありました。

ひとつは、私が治療者としてクライエントにどう向き合い、何を見て、どんなことを考えながら話を聞いているのかを、いわば「陪席」のように見てもらうことでした。

言葉で説明しにくい臨床の知恵があります。どこで質問するのか。どこでは質問しないのか。どんな質問をするのか。どの言葉を拾うのか。どこで待つのか。一見ばらばらに見える情報を、どうつないで考えるのか。

普段の面接の陪席をしてもらうことは難しいですが、ロールプレイならその過程を実際のやりとりに近いものとして見てもらうことができます。クライエント役としてその体験をしてもらうこと、オブザーバーとして見てもらうことを通じて、そういった私が言語化しきれずにいるものを体感していただけたのではないかと思います。

もちろん、私のカウンセリングのやり方が唯一の正解ではありません。治療者ごとに持ち味というものがあり、技法や流派のほかに、個人の態度や姿勢、価値観、雰囲気といったものが、その人なりの臨床を醸成します。ロールプレイで見せるからといって、かっこつけたものを提供できるわけではありません。そこには、私自身が見せるに足るものをできるか、人に見せられないことをやっていないか、自己点検もしなければなりません。

参加者は、医療や教育をはじめ、さまざまな現場で働いていました。それぞれが自分の現場で得た知恵を持ち寄ることで、私自身もたくさんのことを教えてもらいました。どこかの現場で同業者が頑張っていると知ることも、この仕事を続けるうえでの小さな励みになっていたのではないかと思います。


コメントする力を育てる

もうひとつ、私には隠れた教育目標がありました。「コメントする力」を身につけてもらうことです。毎回、参加者全員に話してもらったのは、そのためでもありました。

発言する勇気は、発言することで身についていきます。話すことに慣れると、人の話を聞きながら自分の考えをまとめ、それを短い言葉にして相手に伝える力も、少しずつ育っていきます。

心理職が他職種と連携して仕事をするためには、この力が必要です。どれほど大切なことに気づいていても、カンファレンスで発言できなければ、その視点をチームに届けることはできません。とても大事なスキルなのですが、意識しないとなかなかトレーニングする機会が少ないものです。

だから、この会の最後の60分も、私にとっては大切な時間でした。

人の話を聞く。自分の中に浮かんだことをつかまえる。言葉にまとめる。そして、相手に届く形で差し出す。

それを、安全な場所で何度も練習してほしいと思っていました。嬉しいことに、確実にコメントする力を上達させていった方たちを何人も見ています。最初から、知識があり、経験があり、非常にコメントが上手な方たちもいらしていて、そういう方たちが参加者のモデルになってくれた面もあったと思います。


安心して考えられる場所

この形式の症例検討会は、安全性を保つためにクローズドな場として行ってきました。毎回少しずつ顔ぶれは入れ替わったものの、続けて参加してくださる方がいらっしゃったことは、とても嬉しいことでした。初年度は3か月ずつのペースで申し込んでいただいていたのですが、そうすると顔見知りになれない、顔見知りにならないと安心して発表できないといった声があったことから、半年ごとに区切るように変えました。

半年という時間を一緒に過ごし、同じルールを共有し、少しずつ安心して発言できる関係を作っていきました。ですから、「今度の日曜日に一度やってみましょう」と、そのまま単発で再現できるものではないと思います。けれども、症例検討会には、こんなやり方もあるのです。

怖い思いをしなければ、人は育たないわけではありません。厳しく批判されなければ、臨床家として鍛えられないわけでもありません。安心して考え、安心して迷い、安心して発言できる場所だからこそ、育つものもあります。


安全なゼミ室のように

私は「こころの相談室ねこのて」を始めるときに、研究をしないゼミ室、部活をしない部室をイメージしました。仲間が集まって、情報を持ち寄って、話し合う。笑い合う。研究や部活にあたる「なにかを成し遂げること」は個別にがんばってもらって、息抜きにふらりと立ち寄ってもらうような場所。ねこのて症例検討会も、そんな場になれたでしょうか。

3年半、毎月第一土曜日に、この会を続けてきました。できることなら、もっと続けたかった。ライフワークにしたかったと思っています。けれど、ひとまずここで一区切りです。

参加してくださった皆さんが、それぞれの現場で誰かの話を聞き、誰かと一緒に考えるとき、この場所で交わされたたくさんの言葉が、ほんの少しでも役に立ってくれたら嬉しく思います。

そしていつか、参加してくれた誰かが別の場所で、「症例検討会って、怖くなくてもいいんですよ」と言ってくれたなら。それは、この会のとても嬉しい続きになるような気がしています。


【お知らせ】ねこのて症例検討会・アンコール開催

このたび、「ねこのて症例検討会」のアンコール開催が決まりました。

初回は一週間後と、少々あわただしいご案内になってしまいましたが、せっかくの機会ですので、ご興味のある方はぜひお申し込みください。安心して考え、迷い、言葉にできる時間を、もう一度ご一緒できたら嬉しく思います。

※開催日時・参加方法・お申し込み先はこちらからご確認ください。

【お申し込みリンク】https://forms.gle/kXZA3A5geLL6wreh9


なお、メールのお返事がかなりゆっくりであること、ご了承くださいませ。よろしくお願いいたします。



 
 

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